インタビュー花咲くいろは

花咲くいろはスペシャルインタビュー第11回

――背景を描かれて一番嬉しいのは、やはり会心の背景カットができたときですか?

東地:
「そうでもなくて、決してBG(*2)オンリーではない。BGオンリーは世界観、舞台の説明だけで、それを踏まえたあとキャラクターがどういう心情で動いているかが重要なんです。極端なことを言うと一番感動するのは、ボケハイ(*3)のカットだったりするんですよ。アニメはキャラクターが主役なんだと。自分がその作品の中で感動するシーンは、不思議とボケハイが多いですね」

平柳:
「早くボケハイに感動できる境地になりたいです(笑)。でもボケハイでもよく見せるために、背景のディテールを丁寧に作っておくことが重要で、そこをしっかり描くのが僕らの仕事なんですよね」

東地:
「自分が作業するときキャラクター原画や設定のコピーを切り抜いて、ボードなどに乗せておくんです。するとディテールがうるさくないか、ここは心情的にもう少し絞り目にしたほうがよくないか、と意識できるんです。作業を進める上で面倒で、普通はあまりやらないことなんですが、キャラクターを乗せずに描いていると、絵に集中してしまって何のためにその絵、舞台が用意されているかがおろそかになってしまうですよ。やはりキャラクターが主役なんだと」

――平柳さんが喜びを感じるときは?

平柳:
「納品のときですね(笑)」

東地:
「確かにそれはある(笑)」

平柳:
「自分はスタッフと一緒にやっているのですが、他のスタッフから思いもよらないいいものがあがってきたときが一番面白く、嬉しいときです。集団作業が好きなので、そういうところで喜びを感じます。ただ先ほどの東地さんのお話に反するかもしれませんが、自分は個性を発揮されると嬉しく感じるんです」

東地:
「あ、法則が間違っているから直すということはなくて、流れで見たときにその背景に違和感がなければOKなんです。そこは客観的に見るようにしています。それに今あがっているものは、どもれもこちらの意図を汲んでやってもらっていると思いますし、いくつかは、これは楽しんで描いているなと、感じる背景もあるんですよ」

平柳:
「それで大丈夫ですか? 自分もできるだけクールに舞台を用意したつもりなんですけれども」

東地:
「もちろんです。平柳さんが描かれた背景は、平柳さんの捕らえ方で上手く表現されていたので嬉しかったですね。特に岩の表現には驚かされました。安藤監督も、岩を見て『壊したくなるよな岩だよなぁ、この岩アクションで壊したい』って褒めていましたから(笑)。自分もまだまだだなと。あと僕は変な描き方をしているので、ボードを見たとき驚かれたと思うんですよ。雲のレイヤーの重ね方とか」

平柳:
「ちょっと変わっていますよね。下にスクリーンを置いて」

東地:
「何でああなの?  って聞かれると説明できないんですけれども、自分がほしい色を探していったらああいう描き方になってしまった」

平柳:
「でも真似しようとしても、なかなかああいう色にはならないんですよ。実は『花いろ』を引き受けたもうひとつの理由に、最近行き詰っていたというのがあるんです。もうネタ切れというか、自分で美術を持つのが辛くなっていた。そのとき、東地さんの美術補佐という話だったので、勉強させてもらうつもりで参加させていただきました。そういう時期って背景マンとしては必要だと思うんですよね。人の下について盗むというか勉強することは。『AngelBeats!』と『花いろ』で自分にはなかったいろんな引き出しが増えました」

東地:
「どんどん盗んでください(笑)。自分には企業秘密などないですし、持っているものは全部出していますから。秘密にしてもいい方向には転がらないですからね」

画像

背景の一部。ボケているがしっかりと描き込まれているのが分かる。