インタビュー花咲くいろは

花咲くいろはスペシャルインタビュー第10回

――今回かなりの枚数のボードを描かれていますが、東地さんがボードを描かれるとき、何か目標をもたれたりするんですか?

東地:
「すごい背景を見せるんだ!  と思うことはなく、必要なものを淡々と描いているだけです」

平柳:
「これは僕の意見なんですけれども、東地さんの作風は、どこかクールなところがあると思うんですよ」

東地:
「クールというか、実はあまり自分の想いを絵に入れないようにし、客観的な視点を持つようにしているんです。これはある監督からアドバイスをいただいたのですが、『背景に感情は込めなくてもいいし、個性も必要ない。感情や気持ちは見てくれた人がその絵やアニメに対して詰め込むのであって、自分たちはどれだけ感情や気持ちを詰め込まれても壊れない器を一生懸命つくるべきだ』と言われたんです」

平柳:
「なるほど、それは一理ありますね」

東地:
「それを聞いたとき、ああ、そうか!  そういうことか!!  と、それまで疑問だった部分が解消されたんです。ボードを描くときに意識するのは、キャラクターが自由に動き回れるように、矛盾のない世界観を作ること。例えば、ここにあるボードは空が途切れていますけれども、気持ちの上ではずっと続いているんですよ。後ろも振り返られるし、ボードの見えない部分はどうなっていますか?  と聞かれてもちゃんと答えられる意識を持っている」

平柳:
「風景は360°あって、ボードというのはそこの一部を切り取っている感覚ですね」

東地:
「そうです。“背景は絵を描く仕事ではなく、舞台を用意する仕事”だと。いつも作品の世界観に入り込んで描くようにしています。ただ自分が背景マンだった頃は、テクニックばかりを追いかけていたんですよ。もちろんそれはとても大切なことなんですけれども、あとになって考えてみれば、自分が影響を受けた先輩方は、みなさんそういう客観的な目を持って描いていらしたと思うんです」

平柳:
「空の描きかたひとつとっても、いろいろですからね」

東地:
「空の表現には大きく2パターンあって、ひとつは雲のディテールなどをとことん突き詰めていく美しい空、もうひとつはディテールよりも空間の広がりを描く空。そのどちらが好き!?  というのをよく話題にするんです。自分は空間の広がり、抜けるような空にやられてしまっていて、今回もその空を表現したいなと思っています」

平柳:
「でも舞台となる日本海の空は、太平洋側と比べてるとあまり抜けていない、暗いイメージがありますよね」

東地:
「そうなんですよ。『花いろ』のロケハンに行ったときに実感したのですが、日本海側と太平洋側では光の方向が全然違う。自分は太平洋側で生まれ育ったので、空に浮かぶ雲の印象は逆光なんです。それに逆光のほうが影面も多くて、描きやすいんですよ。逆に日本海側の雲って順光で、奥に抜けていくような空を描くのは難しいんです。でも奥に抜けてない空というのも特徴なので、その空気感を出せればと努力しています」

――空が基本なんですね。

東地:
「空って形が決まってないので、上手く描くのが難しくて、永遠のテーマだと思います。あと個性も出ますし、その人の性格も全部出ちゃうんですよ」

平柳:
「空に限らず、絵には性格が出ますよね」

東地:
「本当にそう。普段、平柳さんとは個人的にお会いしていないし、仕事上でのお付き合いなんですけれども、お互い考えていることがすごく分かる。絵というのは素っ裸で、バレバレなんです(笑)。口で偉そうなことを言っていても、絵でやり取りをしている相手には全部伝わっているんです」

平柳:
「手描きの頃は本当にその傾向が強かった。今はデジタルが主流なので、その感覚が少し薄くなってしまいましたけど……。もちろんデジタルになっていい部分もたくさんありますが、何か物足りなさを感じるのは、そういうところだと思います」

――デジタルで手描きのタッチを100パーセント表現するのは難しいんですか?

平柳:
「もちろん実践されている方はいますし、まったく無理ではないと思うんですけれども、やっぱりどこかで別物かなって思うんです」

東地:
「絵というものは頭の中にあるものしか表現できないんですよ。描こうと思わないものは絶対に画面に出ない。そこがアニメの魅力だと思うんですけれども、手描きだとさらにその傾向が出やすい。なぜかというと、絵の具で描くという行為はプラスしかないんです。足し算しかない。自分がデジタルに変わったときにすごく違和感を感じたのは、初めて引き算という概念が出てきたこと」

平柳:
「確かにそれは感じました。特に最近は引き算することが多いです」

東地:
「レイアウトシステム自体もどんどん変わってきていますからね。特にTVシリーズは時間の制約が厳しいですから、テクスチャ素材として写真を加工をして背景に取り入れたりすることもある。でも実際の画像(写真)というのは雑音(情報量)が多くて、そのまま背景に写真を貼り付けてしまうと突然冷めた画になってしまうんです。手描きの場合は、そこには自分が描きたいものしかないですからね」

平柳:
「自分の背景もそうなんですけれども、デジタルになってやたら情報量が増えている傾向にあります。でも最近は手描きの頃の感覚に戻ろうという動きもありますよね」

東地:
「そうですね。手描きには戻れないけれども、デジタルでもディテールに頼るのではなく、もっとシンプルに、原点に戻ろうという傾向が背景業界の中であるのかなって感じます。デジタルであれば、ディテールを増やしていくのはいくらでも手段があるんです。好きなだけテクスチャも貼れますし。手描きの場合、ディテールを増やすにはとにかく描くしかなくて、ビルに100個窓があったら、100個描かなければいけないですから(笑)」

平柳:
「リアルに出来ることは当たり前ですからね。でもデジタルならデジタルならではのよさもあるのかなって最近よく思うようになりました」

東地:
「デジタルのほうが取り扱いしやすいですし、現状では美術監督もしくは美術を担当するという工程において、デジタルは必要不可欠ですから。もちろん手描きでやっている方もいるんですが、修正作業が間に合わないので、デジタル上でやる。本絵が手描きだとしても、それがこちらに来るときにはスキャンしたデータでやってくるので、加筆できないんです。劇場作品はまた別ですけれども、TVシリーズにおいてはほぼデジタルで作業されています。今、手描きというのは手間も時間もかかるので、贅沢なものなんです」

――でも未だに作画やキャラクター等は手描きなんですよね。

東地:
「自分はそこが一番重要だと思います。背景、色指定、仕上などの工程はデジタルの恩恵をものすごく受けて派生できたんですが、作画はそれがほとんどなく、今でも鉛筆で描いている。もしかしたらアニメ制作の中で、手描きとデジタルはどんどん離れてしまっている可能性もある。それを押さえつけて融合させるのが、撮影の技術なのかもしれないですけれども……。少なくとも今はアニメというものは完成されたものではなく、進化の途中なんだろうなと感じています」

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空が印象的なカット。どちらも空間の広がりが感じられる。