インタビュー花咲くいろは

花咲くいろはスペシャルインタビュー第35回

――アニメと実写で編集の違いはありますか?

高橋:
「アニメは絵コンテがあって、それに沿って描かれた画を繋げるのですが、実写は同じシーン、同じ芝居でもいくつかのアングルから撮ってそれを編集していきます。簡単に言えば、アニメは実写に比べて1本道。編集作業という点では、もともとの素材が違いますので差異はあります。でもアニメの編集でもカットを入れ替えたりしますので、キャラクターの感情やシーンの空気感を演出するという基本的な編集の考え方は同じです」

――編集作業をしていて面白いと感じる部分はどこでしょうか?

高橋:
「素材を繋げて1本のフィルムを作り上げていくという、編集作業そのものも面白いのですが、やはり一番は完成したとき。出来上がったのを見て、面白いというのが一番ですね」

――『花咲くいろは』で好きな話数は?

高橋:
「7話や18話です。コメディタッチではあるんだけれども、最後にはホロリとさせてくれる。個人的にそういうお話が好きです。あと個人的に編集が上手くいったと思うのは11話ですね。実は僕の中でちょっとした転換期だったんです。11話をやってから『花咲くいろは』の編集スタイルが少し変わったと思います」

――具体的にどこが変わったのでしょうか?

高橋:
「カットの作りがしっかりしていれば、長回しのシーンでも、そんなに気にならないなと感じたんです。具体的には緒花と孝一がファミレスで会話するシーン。ふたりを後ろから撮っているのですが、緒花たちにはあまり動かないんです。その代わりガラスの外はバスが走っているなど、動きがある。こういう処理をすれば、画がそんなに変わらなくても間が持つんだなと。アニメの面白いところだと感じました。あと11話は、緒花がドリンクバーに飲み物を取りに行った横に、ジュースをこぼしそうな女の子が歩いているなど、キャラクターの芝居が細かく、しっかり作られているんです。そういう点でも印象に残っていますね」

――では、好きなキャラクターは?

高橋:
「う~ん、難しいですね……。皆個性があって好きなんですけれども、あえてあげるなら巴と皐月かな。緒花や民子のように元気な女の子もいいのですが、巴や皐月のように根がしっかりした女性もいいなと。特に7話で巴が、鏡で自分の顔をしっかり確認して『これでもう終わりよね』と言うシーンがとても好きなんです。個人的に鏡越しのカットに弱くて(笑)。あと11話のAパートのラストで、緒花とやり取りをする皐月も好きですね」

――仕事でストレスを感じることもあると思いますが、どうやって気分転換をされますか?

高橋:
「映画観るか、本を読むか、音楽を聴くかですね。基本インドア。外に出ることは好きなのですが、今日は天気がいいからキャンプに行くぞ! というキャラではないので(笑)。でも編集作業をしていてストレスが溜まるということはないんです。それよりも、完成した映像を見て、ああしてこけばよかった、こうしておけばよかったと反省することが多いですね。これはアニメではよくあることなのですが、作画が間に合わなくて、コンテを撮影したもので編集することがあるんです。そのとき、ここは抑えた感じで声優さんは演じられるんじゃないかと思って繋いでみたら、逆にすごい感情を込めた芝居をされていて、あー、こうきたかと。確かにこのキャラクターで、こういうシチュエーションならこうだよなと」

――プライベートで映画を観に行かれたとき、編集的な視点で観てしまうこともありますか?

高橋:
「ありますね。物語を楽しめないということはないのですが、観ていて引っ掛かることもある。逆にいつも凄いと思うのが、『ボーン・スプレマシー』を手がけたポール・グリーングラスの作品です。カット割りが非常に多く、細かく刻んでいるのに物語が分かりやすい。無駄がなく、必要なところだけを繋いでいるからで、空間を把握させる編集がとても上手いなと感心させられます」

――編集を目指す人にとって一番重要なスキルはなんだと思われますか?

高橋:
「会話の間を感じることだと思います。どんな作品でも会話の間でキャラクターの感情や気持ちを現わす。アクションやホラー、恋愛モノなど作品によって編集の仕方は変わるのですが、同じ作品でも編集マンが変われば、全然違う作品になるんですよ。
これは僕が編集の仕事をし始めた頃に教わったことなのですが、“会話の間は、落語の間”だと。落語はひとりで複数のキャラクターを演じて会話を紡いでいきますし、言葉のトーンや間で感情や状況を把握できる。画がなくてもそのシーンが思い浮かぶんですよね。それが編集の基本だと思います」

――それでは最後に『花咲くいろは』を楽しみに見てくださっているファンの方へ、メッセージをお願いします。

高橋:
「最終話間近ではありますが、もう少しだけこの作品に付き合っていたいという気持ちもあります。『花咲くいろは』には、そう感じさせてくれるぐらい、しっかりとしたドラマがあり、とても編集し甲斐がある作品。これはピーエーワークスさんの作品を見ていつも思うことなのですが、毎回違うこと、新しいことをしようとする姿勢が作品から感じられるんです。そういうところが一緒に仕事をさせていただいて楽しい部分なんですよね。ファンの皆さんも最後まで楽しんで見ていただければと思います」