インタビュー花咲くいろは

花咲くいろはスペシャルインタビュー第32回

――撮影で楽しいと感じるのはどういう瞬間でしょうか?

並木:
まずはスタッフの皆さんが一生懸命作っていただいたセルや背景を撮影ですべて組みあげる。バラバラだったものがひとつになるときの感動は格別ですね。また1カットでいい画ができたというのも嬉しいのですが、やはりカットを繋いで見たときにシーンが上手く流れているときが撮影をしていて、一番嬉しい瞬間です。

――今までの放送された話数の中で印象に残っているシーンはどこでしょうか?

並木:
自分が担当したわけではないんですが、11話後半の雨のシーンや1クール目のオープングです。オープニングで緒花がみんちの手をつかんで、そこから電車の中に繋がる一連の流れは好きですね。もちろん素晴らしい素材や演出があってこそで、我々はそんなに大したことはやっていないんですけれども。

――そんなことはないです! 最終的に作品の空気感を作るのは撮影というセクションであり、 素材を活かすも殺すも撮影さんの手腕かなと思います。

並木:
それはあるかもしれません。いい素材があっても変な味付けをしてしまうと素材を活かせない。料理人みたいな感じですね。その作品のカラーに合わせた味付け、作風にあった撮影を心がけています。

――そのさじ加減というのはやはりセンスですか?

並木:
基本は監督さんや演出さんが指示をしてくれるのですが、細かな調整は撮影の仕事になります。今はデジタルが主流になっていますけれども、実写の画作りというものをどこか頭に入れておかないと、説得力のある画にはならないと思うんです。特に『花咲くいろは』は実在している場所も出てきますので、実写を意識して撮影しています。

――ちなみに並木さんが好きなキャラクターは?

並木:
個人的にはスイと、最近はちょっと壊れ気味の蓮さんが好きです(笑)。あとは結名。
これは完全に父親目線なのですが、自分の娘(2歳)に少し似ているかなと。こう言うと結名に怒られるかもしれませんが、女の子特有のワガママな感じというか、子供っぽい性格が似ているかなと思います(笑)。

――そもそも並木さんが撮影を目指されたきっかけは何だったのでしょうか?

並木:
撮影に興味を持ち始めたのは専門学校時代です。アニメ科のある専門学校に通っていたのですが、もともと絵を描くのが好きで、アニメーターや美術など絵を描く仕事がしたくて入りました。でも自分に絵を描く才能はそこまでないと気付きまして(笑)。ただ卒業制作のアニメーションをひとりで作ったのですが、その過程で撮影って面白いなと思ったんです。

――卒業制作のアニメをひとりで作られたのですか!?

並木:
実は影響を受けた作品のひとつが新海誠さんの『ほしのこえ』なんです。新海さんは作画、脚本、演出、美術、編集、そして監督とアニメーションに関わる作業をひとりでやられていて、“ひとりでもここまでできるんだ! 自分もできるかもしれない”と勘違いして、卒業制作をひとりで作ることにしたんです(笑)。

――小さいころからアニメは好きだったのですか?

並木:
見てはいましたけれども、中学、高校の頃はアニメに関する仕事に就こうとは考えていませんでしたし、専門学校に行く前は工業系の大学に入っていたんです。でも何か映像を作る仕事に関わりたい、できることなら絵を描きたいという想いがあり、あらためて専門学校に通うことにしました。そこでT2スタジオを立ち上げた初期メンバーの佐藤さんが講師をされていまして、その方の紹介でT2スタジオに入社したんです。

――並木さんが始めて撮影監督をされた作品は……。

並木:
撮影監督としては『CANAAN』が最初です。副担当(撮影監督補佐)としては『true tears』が初なので、ピーエーワークスさんと共に歩んでいるような気がします(笑)。個人的な感想ですが、ピーエーワークスさんはすごい真面目なスタジオ。スタッフの皆さんの作品に対する姿勢がしっかりされていて、普通だったら省略しまう2Dの部分もしっかりと描かれる。そこは堀川さんの熱意が、周りのスタッフにも伝染しているんだなと感じます。

――安藤監督にはどんな印象をお持ちですか?

並木:
監督によっていろいろなタイプの方がいらっしゃるのですが、安藤監督は各セクションのいいところを引き出すのがとても上手い方だと思います。監督のカラーで自分の世界を作り上げつつ、各スタッフの魅力も作品に反映させる。すごい方だと思います。また作画に対しての意識も高く、気になったところは絶対に引き下がらない。そういう姿勢は見習いたいですね。

――では最後に『花咲くいろは』を撮影監督の立場から見た場合と、一視聴者として見られたときの感想をお聞かせください。

並木:
撮影監督としては、すごく丁寧に作られている作品だと感じます。作画をはじめ本当に細部までこだわって作り込んでいる。自分たちもそれに応えられるような撮影を心がけています。一視聴者として見た感想は、元気をもらえるアニメ。実際の放映もリアルタイムで見ているのですが、日曜日の夜は比較的家にいることが多いですし、ちょうどひと息つく時間でもある。そして緒花たちの頑張りを見て、また月曜日から自分も頑張ろうという気にしてもらえる。そういうアニメは最近なかったですから、毎週楽しみにしています。