インタビュー花咲くいろは

花咲くいろはスペシャルインタビュー第2回

――関口さんが岸田さんの絵をアニメーションに落とし込む際、何か挑戦してみようという試みはありましたか?

関口:
「前回も言いましたが、ホホブラシなど岸田さんの原案をなるべく崩さない形で再現しようとしています。挑戦という意味では毎回、キャラクター原案が違うので作品ごとにいろいろですね。大きなテーマでは原案の特徴をつかんでキャラクターデザインすること。『花いろ』に関しては、まず岸田さんの絵の繊細さ、女の子がキャピキャピかわいいというよりも、しっとりしたかわいさ、落ち着いた感じがありますから、そういう雰囲気を残すのに苦労しました。どうしてもアニメ画にすると線を減らさなくてはいけないですからね。特に緒花(松前緒花)の髪の毛に悩みました。実は最初ロングヘアーだったんですよ」

岸田:
「そうでした。結局ボツになりましたけど」

関口:
「まだ動かない女の子だったらいいんですけれども、活発という設定でしたし、ピーエーワークスの作品は、動かないようで地味に動くのも分かっている。最初は『主人公がロングで、しかも動くのかぁ、これは大変だ』と。でもそのあと、髪の毛を短くしてもらう方向だと聞いてホッとしていたのですが、あがった絵はウェイビーヘアでした(笑)。ただ岸田さんがいろいろなポーズや表情を描いてくださって、それこそアニメのキャラ表っぽく描いてもらっているので、これそのママ使えてしまうかも、もうそれに乗っかろうかと」

岸田:
「すまし顔が1個あっただけではしょうがないと思うんですよ。いっぱいパターンがあったほうが、いいのかなって。それで少し斜めを向いた顔とか何パターンかの表情を描こうみたいな決まりごとを作ってやりました。もちろんそのときの体調とか時間とかによっては少なくなったり多くなったりしましたけど(笑)」

――おふたりが打ち合わせをされたとき、岸田さんから関口さんに何か具体的なアドバイスはされたのですか?

岸田:
「関口さん描かれた画を見ながら、少しだけアドバイスをさせてもらいました。実は打ち合わせのとき関口さんから、具体的な指示のほうが分かりやすいので、ぜひ指摘してくださいと言われたんです。

でも最初はどこまで言ったらいいんだろうと、ちょっと悩んだ部分もありました。これを指摘したら結構イラッとされるんじゃないかなって」

関口:
「いやいやそれはないです。言ってくださいと言っておきながら、ムッとするというのもね(笑)」

岸田:
「でもそういうことを言ってくれるということは、本当に絵の特徴をとらえてくれようとしてくれている、感情的な部分を抜きにしていいものを作ろうしてくれるということですから、すごく好感を持てたと同時に安心しました。普通クリエイター、特にイラストレーターやマンガ家の場合だと、たとえ自分ひとりの作品ではなく、ほかの人が関わっていても、絵の細かい部分を人に指摘されたり、変えろと言われるのが嫌いな人が多いと思うんです。もちろん人にもよりますけれども」

関口:
「確かにそうかもしれないですね。でもそれはアニメーターにも言えることで、自分自身の画を持ちながら動きや世界観を描ける人は、やはり監督とかになられているんです。私は逆で、原案のイメージを拾いたいタイプ。クセはあるけど基本的にオリジナリティのない作画監督なんですよ(笑)。キャラクター原案をなるべく崩さないように、可能な限り線を残して画を動かしたいといつも思っています。原案者の方からの返事を聞くまではビクビクなんですけれども」

――ちなみにその具体的な指示というのは?

関口:
「ほっぺたの描き方ですね。私の描く画は、ほっぺたの下のほうにふくらみがあるんです。それは自分でも分かっていて、そういう作品を多く担当してきたことと、あとはクセだと思うんです。それをちゃんと言葉で指摘していただいたのがありがたかったです。なんとなく似ていないけどまっいいやと思われるよりも、言ってもらえるほうが何倍も嬉しいですから。自分もそのひと言で岸田さんの絵に一歩近づけたかなって、ちょっとおこがましいですよね」

岸田:
「そんなことないですよ。関口さんのデザインは何も言うことがないです。僕の絵って色を抜くと特徴がとらえづらい絵だと思っているんですよ。でも色付きのデザインを見ても、自分で自分の絵を見るときにここは押さえておきたいというポイント(先ほどのほっぺただったり)が、ちゃんと関口さんのキャラデザで押さえてもらっていますしね」

関口:
「でも実際に作業するうえでは難しい点ですよね。普通、原案の方からのそういった連絡は制作を通してやることですし、間に立ってもらわないと、一対一で言いにくいこともありますから」

岸田:
「あ、何か嫌なことありました?(笑)」

関口:
「いやそう意味ではなく(笑)。でも一番は人柄という部分が大きいのかなって思います。人によっては最悪衝突してしまうし。これは伝えないでおこうとか、伝えるタイミングはちょっと間を読もうとか」

岸田:
「確かに難しいですよね。距離感のとり方というか、どっからどこまで触れるのが仕事としていいのかというのはありますね。僕も最初、堀川さん、永谷さんにお会いしたとき、キャラクター原案としてどこまで関わって、どこまで発言するのがいいのかお聞きしました。やっぱり言い過ぎてしまうと邪魔になってしまいますし、逆に何も言わないと仕事の意味がなくなってしまう。もちろん作品ごとにその距離感は違うんですけれども、僕にとって『花いろ』は、いい距離感です」

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岸田さんが描かれた緒花のラフ案。こちらはウェイビーヘアに決定した時のもの。

 
 

花咲くいろはスペシャルインタビュー第1回

――まずはおふたりが作品に関わられることになった経緯をお聞かせください。

岸田:
「最初にお話をいただいたのは、今回プロデュースを担当されている永谷さんからのメールでした。実はそのメールにはあまり詳しいことは書かれておらず、抽象的な内容というか、印象としてはアヤシイ感じでした(笑)。ただお互いが知らない同士で、いきなり詳細なメールというのも双方にリスクがありますから、それが普通なんですけれども。個人的にはとても興味があったので、何回かメールをやりとりした後、一度お会いすることになったんです」

関口:
「私はプロデューサーの堀川さんから、よろしくと(笑)。岸田さんがプロットを読まれたときは、タイトルもまだ『ぼんぼりの宿』という、ちょっと地味目な仮題でしたよね?」

岸田:
「はい。実際に堀川さんと永谷さんにお会いして、プロットを読ませていただいたのですが、これは地味なのがきたなと(笑)」

関口:
「それでも引き受けようと思った決め手はどこだったんですか?」

岸田:
「単純に堀川さん、永谷さんの説明がとても面白かったんです。まず『true tears』を引き合いに出され、あれは“大映ドラマ”(*1)を目指して作ったんだと。そして今度は情熱、青春をテーマにして作りたいという説明でした。確かにプロットは地味でしたが、昼ドラや朝の連続ドラマシリーズのような印象があり、これはかなり面白くなりそうだなと。またキャラクターも、『いわゆるアニメ的な個性や特徴がなくてもいいんです』とおっしゃっていただけたのが、非常に魅力的でした」

関口:
「確かに『花いろ』(*2)、というかピーエーワークスの作品は、一般的なアニメーション作品の立脚点かはらちょっとズレているのかも」

岸田:
「普通ならば、まず売れ線がこういうもので、そこにいろいろとテンプレ的なものを乗せていくと思うんです。でも『花いろ』では、“こういうことがやりたいんだ、それをアニメに乗せたら面白いんじゃないか!?”というのがハッキリしていました。僕がそれまでアニメ業界に抱いていたイメージや、体験してきたこととはちょっと違っていて、そこに惹かれたんだと思います」

――実際に製作がスタートして、おふたりは2010年の6月に初めて会われていますが、お互いどういう印象を持たれましたか?

関口:
「私は堀川さんから『イケメンですよ』って予備知識を入れられていまして(笑)。それで実際にお会いして『本当にイケメンだ!!』って。オーラもありますし、役者もやられていたんですよね?」

岸田:
「いや、もう本当に勘弁してください。イケメンじゃないですし、そんなにハードルをあげられると初対面の人に会うのがホント嫌になりますから(笑)。役者というのも昔の話で、今はもうやってないですから」

関口:
「でも役者をやられていただけあって、いい声していますよね。描かれる絵もそうですが、ご本人も存在感のある人だなって」

岸田:
「僕は関口さんのお名前をうかがったとき、まずネットで確認しました。仕事で関わる人の名前をすぐに検索するクセがあるのですが、ピーエーワークスさんのホームページに顔写真が載っていて」

関口:
「唯一、出てしまった写真ですね」

岸田:
「本人を目の前にしてアレですけど、すごいお綺麗な方だなと思いました」

関口:
「まぁ。親族一同に自慢しちゃいますよ。イケメンにいいこと言われたって(笑)」

岸田:
「あとは独特の空気を持った方だとも思いました。いろいろとお話をさせてもらって、作品や画と向き合う気持ちを内に秘めた感じというか、オーラがあって、偉そうな言い方ですけれども信頼できる方だと感じました」

関口:
「キャラクター原案の方にそう言っていただけると、とても嬉しいです」

――『花咲くいろは』はオリジナル作品になりますが、岸田さんが一からキャラクターを作るうえで、何か決められていたことはありますか?

岸田:
「特にコレということはないのですが、絵を描くとき、線や色を塗るタッチなど手数を増やしていくのが好きなんです。でもアニメはその逆で、なるべく単純化されたシンプルな線で、かつ色もあまり使わないというのが基本。そこで今回は“アニメの手法に近づけながら、自分の個性を残せないか”ということを考えながら描きました。そのほうがアニメになったときにも、僕の絵としての違和感も少なくなりますからね」

関口:
「原案を見たとき、岸田さんがどれだけこちら側に歩み寄れるかと、気を使ってもらっているのが非常に伝わってきました。それに応えるべく、こちらとしても岸田さんの絵の魅力をなんとか残すように試行錯誤しました。実は撮影さんの処理で、ホホブラシ(*3)も以前よりも簡単に乗せられるようになったんです。以前だとレイヤーをものすごく分けなきゃいけないような作業があったんですけど、今は一枚の画でいけるらしくて。やはり岸田さんの絵にはホホブラシは外せないですね。これがあるとないとでは説得力が違います」

岸田:
「関口さんをはじめ、スタッフのみなさんには本当に感謝しているんです。とても頑張ってもらっているというのは、あがった画を見れば一目瞭然ですから。これまで原案とアニメのキャラクターデザインは、違ってもいいんじゃないか?  というか違うのが当たり前だと思っていたんです。でもキャラクター原案とアニメのキャラクターは、なるべく近いほうが嬉しい方が多いんですよね」

関口:
「そうですね。本来はキャラクター“原案”なのでキャラクター“デザイン”とは別なのですが、最初から違うものだと考えてやるよりは、キャラクター原案とキャラクターデザインの親和性がいい状態で維持できれば、作品の質もよくなると思います」

(*1)大映ドラマ…大映テレビが制作した実写ドラマで、1970年代から1980年代にかけて放映されたものを指す場合が多い。
   『スチュワーデス物語』や『スクール☆ウォーズ』など多数のヒット作が生み出された。
(*2)『花いろ』…『花咲くいろは』。スタッフ間では、『花いろ』と略すことが多い。
(*3)ホホブラシ…メイクでいうチークのこと。

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喜翆荘初期の初期デザイン案。この頃はまだタイトルが『ぼんぼりの宿』だった。

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緒花のホホブラシ指定。バストアップ以上の大きさの場合、ホホブラシが入る。